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2014. 2. 11 vol. 18 

取り壊された沼垂の町屋
栗の木バイパスを車で走るたびに、赤いトタン屋根の峰村邸は気になっていました。
 2013年の夏にその峰村家出身の画家峰村リツ子さんの展覧会を砂丘館で企画したのが縁で、初めて中を見学させていただき、素晴らしい庭と、座敷のある蔵に驚きました。秋には取り壊すというお話を聞き、見学をお願いし、さらに町屋研究の第一人者大場修さん(京都府立大学教授)が新潟に来られた機会に、見ていただくこともできました。
 大場先生は屋根裏にまで入られ、当初は茅葺きだったことを確認され、明治末に峰村家が購入したこの家の創建が、近世に遡る可能性のあることから、新潟市域最古の町屋のひとつではないかと推測され、その歴史的価値の計り知れない重要性を指摘されました。
 それを受けて、会として新潟市に保存に向けた取り組みができないか、篠田市長にも直接お話をさせていただきましたが、当家で取り壊しの準備を進められている時点では難しいという市長の判断でした。
 その後、長嶺地区コミュニティ協議会の主催で、主に地域の方々を対象にした見学会も開かれましたが、残念ながら11月に母屋と庭は取り壊されました。
 解体中に当会世話人の長谷川順一が何度も訪ね、確認し得たところによれば、大正の増築と思われていた母屋と蔵の間の座敷部分も、実は柱が変えられただけで、屋根裏の小屋組は母屋と一体であり、そこもまたかつては茅葺きだったことが分かったとのこと。庭、蔵の部分が最初はどうだったかという不明点も含めて、沼垂地区の町家の古型を推測するうえでも、非常に貴重な建築でした。
 十分な調査を行なえなかったことが悔やまれますが、時間のない中で行なわれた建物、庭の緊急調査の結果を総合し、今後できる限りの記録を残す作業の相談を、当会として、今後新潟市ほかの方々とも行なえればと考えています。
 なお、峰村商店の事業は古町糀製造所が引き継ぎ、土蔵は保存・活用される予定です。(大倉宏)

.峰村家住宅

 造り酒屋だった屋敷を、米の仲買人だった初代仲蔵が明治38年12月に購入し、味噌造りを始めました。そのときの建物(主屋)は写真の右側の妻入りの部分で、道路に沿って左に延びる棟と土蔵は大正9年に増築されました。
 主屋は玄関からまっすぐ奥に抜ける土間に沿って部屋が並びますが、大場修京都府立大学教授の調査の結果、当初は天井のない吹き抜けで、床の間や押し入れもなかったことがわかり、建築年代は江戸後期にさかのぼると思われるものでした。一方で柱は太く、中心になる部屋にはケヤキが使われるなど、当時の富裕な商家のありようを伝えていました。新潟市域の町屋の原型をうかがわせる貴重なまち遺産の一つでした。
 
解体作業が始まった峰村家住宅。奥に見えるほんぽーと(市立図書館)までが峰村家の敷地で奥行きは70mあります。同じく解体中の尾崎外科医院3階から撮影。

在りし日の峰村家(写真とキャプションは長谷川順一)
新座敷前より庭越しにみたナカノマとザシキ。庭は、新旧お座敷のどちらからみても、それぞれに趣きを醸し出す名庭。昭和10 年新潟市の造園師、後藤石水の作庭によるものです。
屋根は赤いトタンが被せられているものの、正真正銘の茅葺き民家。旧栗の木川側の建屋は、徐々に沈下が進み、大正揚に揚げ家され、柱が差し替えられていたことが長谷川の調査の結果判明しました。

新旧お座敷各々の上座に座ると、亀を模した石と、その上に鶴が舞い降りる姿をした松を見ることができました。(長谷川のブログからの転載です。)

2012(平成24)年度決算報告

活動報告(平成23年4月.24年3月)

遅くなりましたが、平成24(2012)年度の報告をいたします。

■シンポジウム・講演会の開催
「新潟まち遺産セミナー2012」   5/26(土)    
   レクチャー「新潟の近代建築展に寄せて」 
    小林隆幸氏(みなとぴあ新潟歴史博物館学芸員)
   座談会「新潟の近代建築について」
     小林隆幸氏・大倉宏(当会代表)
    会場:旧小澤家住宅 離れ座敷「松の間」 参加人数:25名

第4回 柳都新潟・古町花街イベント 女子だって花街「花街徹底研究」 9/22(土・祝)
   研究報告「平成花街の建築と景観」〈花街とはなにか、全国花街の実態〉
      京都上七軒・東京神楽坂・東京八王子・山形七日町・新潟古町など
   ガールズトーク「女子力向上 花街塾」
      遠藤麻理(FM Portアナウンサー)・あおいさん(柳都振興)
    会場:三業会館 参加人数:75名

未来へ語り継ぐ堀割再生シンポジウム「美しい水と緑の西堀を思い描いてみませんか」 3/20(水・祝)
   第1部「古町西堀の各団体から、活動のリレー報告」
      古町花街の会・新潟寺町からの会・新潟中心商店街協同組合・当会
   第2部「古町芸妓の踊り」 解説:市山流家元 市山七十世師匠
   第3部「パネルディスカッション」
    NPO堀割再生まちづくり新潟・新潟市・古町花街の会との共催 
    参加人数:79名
■まち歩き・イベント・講座の開催
「ぶらり歩く夕暮れの古町花街」(花街イベント) 9/22(土) 参加人数:34名

麻理さんも体験!「古町芸妓とお座敷遊び」(シンポジウムの後) 9/22(土・祝)
  会場:有明 参加人数:39名

連続講座「初心者のための〈ふるまち新潟をどり〉」 
  共催:砂丘館  5/16(水)、5/27(日)、6/5(土) 各回定員20名(最大19名受講)
■マップの作成
「湊町新潟 下町たてものマップ」の制作準備 
■新潟町屋解体部材に関して
部材を譲渡したNSGさんより、再建不可能との判断がくだされ部材の返却を申し入れられる。水と土の芸術祭で活用したいとのことで水土会場へ移動、活用。芸術祭終了にともない部材の所有権を放棄し廃棄処分とした。

まちなみネットワーク大会に参加

 2013年9月28日(土)、29日(日)の両日、第8回新潟県まちなみネットワーク赤泊大会が、佐渡市の赤泊総合文化会館をメイン会場に開催されました。総会は30名ほど、講演は100名ほどの参加者がありました。
 基調講演では、京都府立大学教授の大場修先生から、全国、新潟県、赤泊の各レベルで町家の詳しい解説がありました。妻入りが多く混在しており、佐渡では珍しい赤泊ですが、越後と最短距離で、つながりが強い影響かもしれないという仮説が興味深かったです。
 北陸地方整備局建政部長の梛野良明さんのセミナーでは、歴史まちづくり法の詳細がわかりました。ハードのみでなく、伝統的な活動があることも認定の要件とのこと。また細かいメニューがいろいろとあるので、詳しく相談する必要があると感じました。文化庁の歴史文化基本構想を作っておくと、その後がスムーズというアドバイスもありました。
 各地からの報告では、赤泊2団体、その他の佐渡市内8団体、その他の県内6団体から発表がありました。村上では町屋の外観再生プロジェクトをさらに発展させて、外観のみでなく内部改修も含め上限100万円に拡大するとのことです。
 懇親会では、住民の皆さんが、佐渡おけさの原型といわれるハンヤ節などの民俗芸能をご披露くださいました。もちろん、地元北雪のお酒もいろいろいただきました。総じて、たいへん充実した大会でした。
           *
 来年度は、新潟県のご好意により、県との共催になります。6月7日(土)と8日(日)に直江津で開催予定です。各地の仲間が一同に会する年に一度の貴重な機会ですので、皆さんも是非ご参加ください。(岡崎篤行)


赤泊の街を歩いて

 29日(日)にはまちあるきがありました。赤泊には大学時代実習で何度も訪れたことがありますが、いつも海岸沿いの道を通って港と調査地を行き来するだけだったため、歴史的なまちなみがあることに全く気がつかずにいました。
 今回の訪問で初めて赤泊のかつてのメインストリートに足を踏み入れ、木の温かみの感じられる建造物が多数残されていることを知り驚きました。
 大場先生の基調講演で、佐渡の表玄関である赤泊の家屋には、越後とのつながりを認められるものが多いというお話をうかがいましたが、確かに地元のまちなみを思い起こさせるような、佐渡の景観の中でもとりわけ親しみやすい印象を受けました。
 まちあるきでは、普段は見ることのできない住宅の内部まで案内していただきました。拝見したなかでも、吹き抜けと渡り廊下のあるチャノマ空間は、家の中に堂々とした広がりと美しさを創り出してしており、とりわけ心を惹かれました。赤泊の魅力に気づくことのできた2日間でした。(田部彩菜)


花街を語る、花街を歩く  花街イベント報告
  

 2013年の9月14日(土)、中央区西堀9の三業会館ホールに於いて「第5回 柳都新潟・古町イベント 女子だって花街part2」昼の部を開催しました。
 午後2時15分、代表大倉宏の挨拶から始まり、引き続き「花街のいろはと古町の取り組み」と題し、最近の古町花街における各団体の活動、とくに古町花街の会の活動などを中心に、新潟大学都市計画研究室の岡崎篤行教授(当会副代表)が報告をしました。
 3時からは昨年の花街イベントでも好評を博した「ガールズトーク」、ラジオパーソナリティーの遠藤麻理さんと古町芸妓(柳都さん)の対談が始まりました。今年の柳都さんはキャリアも長くなった「紅子さん」。お座敷でのお客様への対応作法や、女性っぽい所作の披露、印象的なお客様のお話など、遠藤さんの軽快なエスコートで紅子さんの魅力、柳都さんの素顔がかいま見られた対談でした。
 休憩を挟んで、4時15分からは京都女子大学現代社会学部教授の西尾久美子先生より「おもてなし産業の伝統と革新〜舞妓さん育成と一見さんお断り〜」と題した講演をいただきました。
 京都花街にも、新人育成と催事運営といった、どこの世界とも共通な社会活動があるのですが、長い歴史を守り続けるために継承されてきた、お座敷の世界独特のルールや作法があります。講演ではそれらを紹介いただき、花街文化が今もなお生き続けるエッセンスを学ぶことができました。
 締めは共催団体のNPO法人堀割再生まちづくり新潟・代表理事の川上伸一さんより、イベントの感想を含め、今後の古町花街の可能性をお話しいただき、昼の部はお開きとなりました。昼の部の参加者は約50名でした。
 引き続き夕の部「ぶらり歩く夕暮れの古町花街」では、花街のまち歩きに約30名が参加し、夜の部「体験!古町芸妓とお座敷遊び」には38名参加して、どちらも盛況のうちに花街イベントは終了しました。
 夜の部で行なわれた、市山流家元の市山七十世さんによる解説は、踊りの意味がわかって、より興味がわいたと好評でした。(伊藤純一)

対談する遠藤麻理さんと紅子さん 講演する西尾久美子先生

世話人リレーエッセイ「つくるのも壊すのもひとの意志」伊藤頼子

 先日、法政大学市ヶ谷キャンパス 55年館、58年館の見学会に参加する機会がありました。
 55年館、58年館は、大江宏によって設計された、戦後日本を代表する現代建築です。既に解体された53年館を含め、55、58館も取り壊しが決定していますが、「法政大学55/58年館の再生を望む会」によって、取り壊し中止を求めた活動が2010年からはじまり、見学会・検討会を続ける中で、リノベーション案が提案されています。
 当初、この話を聞いたときには、築58年の状況を考えると仕方が無いのではないか、とも思っていましたが、初めて実際に見た55/58年館は、想像以上に竣工当時の施工状態も、その後のメンテナンス状態も良く、前面をガラスとスチールの黒いラインで構成された白と黒の印象的なデザインは外濠の景観の中で美しく保たれていました。
 3.11以降、耐震性の問題が最優先事項となりましたが、その一方で、使い捨て文化への疑問と限られた資源を有効に使う生活への気運も高まりました。
 優れた建築を、耐震的な検討も無しに簡単に取り壊して良いのか、長い年月を通して、そこを利用する多くの人たちの記憶が蓄積された生きた建築を、その歴史とともに絶ってしまって良いのか。「望む会」は大学側に問いかけています。
 会の代表は、(ひとの)意志が建築をつくり、意志が建築を壊していく、と話していました。それは規模の大きな建築も、小さな建築も、同じです。
 幸運にも、新潟のいくつかの建築は、取り壊しを免れて、現在は市の観光の中心的役割を担っていますが、このたびの峰村商店のように、惜しまれながら取り壊される建築は後を絶ちません。
 残したいという、ひとの意志を支える「仕組み」が欲しい、と切実に思います。

※法政大学55/58年館の再生を望む会HP
http://www.55-58saisei.sakura.ne.jp/index.html


編集後記

 前号から1年半ぶりの会報をお届けします。編集担当の個人的な事情のため昨年度は会報を発行できませんでした。申し訳ありません。(千早和子)



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