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2004年11月22日 新潟日報掲載
被害少なかった伝統民家

中越地震 貴重な職人技 遺産守れ

長谷川順一
(建築家・日本民家再生リサイクル協会会員、新潟まち遺産の会世話人)
ほとんど被害を受けなかった伝統構法で建てられたかやぶき屋根の民家=川口町田麦山

 

 今回直下型地震に見舞われた中越地域は、国内でも有数の良材で家造りがなされてきた地域である。中越地震の被害地域は広範囲に及ぶが、それは偶然にもそういった伝統民家が多く残されてきた地域でもある。阪神淡路大震災と比較して、倒壊に至った建物が少なかったのも、家造りにおけるその地域的特性による賜物であったともいえる。

 厚く塗りこまれていた白壁が落ちた土蔵、優美にしつらえられていた座敷の壁の惨状は震災の大きさを物語っている。また水田地帯に入れば、地盤の軟弱さゆえに傾いたり、不同沈下を起こしたりした大きなお屋敷も多い。
 しかしながら構造の細部を見ていくと、驚くほど損傷が少ない事実に気付く。これがいわゆる雪国特有の骨太構造、木組みの家造りの長所である。その証拠に、震源の真上に位置していた川口町でも、全壊・半壊家屋が圧倒的に多い中、伝統構法による民家は、壁や建具、屋根以外は殆んど被害を受けていない。
 つまり、人体にたとえて言えば「体のあちこちに怪我は負ったものの、きちんと治療すればすぐに治る」という家が多いということである。
 昭和30年代以降の一般住宅が、4寸(12センチ)角程のまっすぐに製材された柱や梁で規格的に組まれているのに対して、伝統構法の家は、山から切り出された木材の反りや曲がりといった性格を生かしながら造られているのが特徴である。
 例えば梁と桁が交わるような部分は、一般住宅は木材同士を半分ずつ切り欠いて水平につなげるが、伝統構法では木の性格(太さや曲がり)を読みながら、その連結部分(欠き)を殆んど欠損させずに連結させている。柱と梁が連結される部分は、今の建築基準では、羽子板とよばれる金物で補強されている。伝統構法では仕口という複雑な細工を施し、これを込み栓と呼ばれる堅木で留めるなど随所に大工の職人技が見える。
 ある程度の太さを持った木同士を、大きく削らず、しかも金物ではなく同じ木を使って補強することで、全体にしなやかな構造となり、今回の地震で大きく揺れはしたものの、破断はしていない。しなりや若干のねじれこそ生じても、折れていないのはそれら伝統構法ゆえのものである。
 40年前の新潟地震当時に比べ、建築土木技術も格段に向上しており、傾いた家の修復も当時ほど手間のかかるものではない。古い家を守ってきた被災者の皆様には、世紀を生きた家を今回の地震を機に建て替えるのではなく、ちょうどよい手直し時期、人で言えば人間ドックの入院時期と思って、基礎からの大規模手直しを施すなど、もう百年生かす勇気を持ってほしい。
 先人の知恵と汗が結晶している伝統民家。木構造とともに長年家を守り続けてきた祖先からの遺産でもある。これらの風土に育まれてきた貴重な遺産を今回の震災によって、見捨てることがないよう、専門家、職人も交えた心ある復興活動が進むことを祈りたい。

 


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