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まち遺産セミナー2014
「風土と建築の存在」―モダニズム建築の抱える課題、保存と活用―
會津八一記念館や日本海タワーといった戦後のモダニズム建築が、構造の強度問題や保守管理問題等といった理由で役割を終え、建物としての生命を閉じようとしている。歴史的建造物としての価値評価が検証されずに失われていくモダニズム建築。数多くの建築の保存問題に関わる経験を持つ兼松紘一郎氏から、モダニズム建築の未来に関して保存と活用という観点からお話しいただく。
講師:兼松紘一郎■建築家。1940年東京杉並生まれ。1962年明治大学工学部建築学科卒。日本建築家協会(JIA)理事・保存問題委員会委員長を歴任。現在DOCOMOMO Japan名誉会員。神奈川県立近代美術館100年の会(近美100年の会)事務局長。熱海市「旧日向熱海別邸等研究委員会」委員、愛知県立芸術大学「施設整備委員会」委員。愛媛県鬼北町庁舎監修委員会委員。著書:「建築家の清廉・上遠野徹と北のモダニズム」(共著、建築ジャーナル)。「喪われたレーモンド建築」(共著、工作舎)など ドコモモジャパンの幹事長として、あるいはJIAの委員として新潟をはじめとして全国を訪ね歩き、地域における近代建築の重要性を語ってきた。数多くの建築保存運動に関わってきた経験から、地域文化・風土と建築の関係を考察して、様々な課題を問いかけたい。
主催:新潟まち遺産の会/後援:日本建築家協会新潟地域会、新潟県建築士会、郷土の文化に親しむ会

旧会津八一記念館活用を 猛暑の7月、久し振りに訪れた新潟で、「風土と建築の存在・モダニズム建築の抱える課題」と題した講演をさせてもらった。主題は、会場の砂丘館(新潟市中央区西大畑、旧日銀新潟支店長宅)から海に向かって少し歩いたところにある旧会津八一記念館の、長谷川洋一という新潟の建築家が設計した建物の保存・活用である。
 1881(明治14)年に新潟市古町に生まれた会津八一は、早稲田大に学び1931(昭和6)年、母校の文学部教授に就任。仏教美術史論文によって博士号を得、「秋艸(しゅうそう)道人」と号して歌人、書家として歴史に名を刻んだ。新潟の名誉市民でもある。
 その功績を後世に伝えようと75年に開館した旧会津八一記念館が耐震の問題などがあるとして先ごろ、新潟日報メディアシップに移転した。
 館を設計した長谷川洋一は人との交流を望まなかったようで建築界でも新潟の人々にもさほど知られていないが、建てられた2年後に発行された会津八一記念館報第2号に、設計に当たっての理念と建築への思いを率直な言葉で述べている。「此の建物が、會津先生の作品の収蔵展示のみを行うとの事で、それにふさわしい力強さと格調高いことが望まれると共に、敷地周辺の自然環境に対して違和感の無いよう心掛けた。外壁の大半を日本古来の漆喰色の感じに近いものとし、軒先の黒、及び軒の出の深さと二階部分のせり出しにより重厚さと陰影を強調した」。そして潮風に配慮して良質で強度のある壁厚を厚くしたコンクリートをダブる壁で施工したとする。
 長谷川は、八一の心根を託した人々に応えたのだ。
 1920年ごろからほぼ世界同時に発足した近代化運動で生み出されたモダニズム建築(近現代建築)は世界共通の建築言語を駆使して建てられたとされ、ともすれば、その時代の産業形態や最先端の技術を取り入れることが主体で、土地の風土に配慮することがなかったと思われがちだ。だが、実はその土地の気候風土をくみ取り、新しい時代を伝える建築意匠にトライしてきたことに、長谷川の言葉は気付かせてくれる。
 明治に生まれ新しい時代を築いた会津八一の記念館をつくるに際し、長谷川は木造の民家や町家などに範をとるのではなく、新しい時代にふさわしく、この地の気候風土に即した建築を建てた。
 駐車場が少ない、老朽化したとも言われているが、駐車場のない砂丘館は間断なく使われている。記念館は既に耐震診断もなされ、改修の検討もされたと聞いた。もし改修することになったら、委員会を設置するなどこの建築の価値を損なわない仕組みを考えてもらいたい。新しい記念館とリンクし、例えば茶室をつくって茶をいただきながら八一の軸を味わう。大きな和室をつくり、句や歌を詠み地元の偉人に思いをはせるのもいい。人々の思いのこもったこの建築を使いながら八一の神髄を味わうのだ。
 講演のあと再訪した、松の木の陰が白い外壁を彩るこの建築の姿に思わずため息が出た。新潟の砂丘地にこの建築のあることを私は忘れない。兼松紘一郎(建築家)

 
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