2012. 7. 20 vol. 17
夏の気配が徐々に強まってきます。ちょうど10年前、2002年の暑かった夏が思い出されます。 東厩島町(ひがしうまやじまちょう)の幅員の狭い道沿いにあった古い家が一軒、その夏に解体されました。 市民から集められた募金を加えて、数日で無惨に壊されることになっていた家が、8月?9月の1か月半をかけて、丁寧に解体されたのです。明治の町屋であったこの家の保存のために誕生したのが「新潟の町屋を生かす会」でした。 この生かす会を母体に、2004年に当会が発足します。募金活動の経緯と解体作業の詳細は当会ホームページ「新潟市東厩島町の町屋 調査・解体報告」をご覧下さい。当初の再建計画は中止となり、部材は当会が所有することになりました。 同じ夏、近くの住吉町では昭和2年竣工の第四銀行住吉町支店の解体工事が同時進行しました。同支店はその後、歴史博物館の敷地に「復原」され、川岸の憩いの場として親しまれています。一方の町屋は、その後期待した「再建」はなかなかかなわず、部材の保管場所も理解ある企業、個人から提供していただいた場所を転々とし、屋外に置かれた時期も長くあり、部材の劣化も進みました。 昨年、関心を持って下さった方から部材を仔細に見たいと申し出を受け、調査していただきましたが、3分の1程度の部材が使用可能との結果で、再建は難しいと判断を受けました。当会でも当初の姿の再建を断念。世話人会、総会での了承を得て、折から開催準備が進行していた「水と土の芸術祭 2012」で、素材として使用していただくことになりました。 この10年、新潟市では旧小澤邸、市長公舎、旧日本銀行新潟支店長役宅の保存活用が進展し、旧斎藤家別邸が購入、公開されるなど歴史的建造物に対する市民・行政の見方も変化してきました。そのひとつのきっかけが、この町屋の保存運動だったのではないかと思えます。上記の建物と違い際立って立派ではない時代の標準的な家に価値を感じて、多くの人の気持ちが動いたことに、今考えると実は大きな意味がありました。その再建を10 年間探り続けたことにも。それが実現できなかったこともまた、時代の環境だったとしても。 町屋に初めて足を踏み入れたのは15年前。閉鎖的な現代住居と対照的な、適度な開放性が住む方の人柄とひとつになっていることに強い印象を受けました。縁あって閉鎖的なお屋敷だった旧日銀の支店長宅に「砂丘館」と通称を付け、その管理活用に関わるようになりましたが、振り返ると、それはお屋敷を町屋のような開放された場に変えようとしてきた試みだったのかもしれないと思いあたり、自分の町屋体験がこのように生きていたのかと気づかされます。 数日前、その砂丘館でダンス公演があり、その後参加者と座敷で歓談していたら、犬を散歩させる方が木漏れ日の落ちる庭を横切って行きました。庭が「トオリニワ(ドマ)」に見え、ふっと細長い土間に瓦のはずされた屋根から夏の光が差し込んだ、10 年前の町屋の解体現場が思い出されました。(大倉宏)
●
新潟市中央区西大畑町の旧齋藤家別邸は、本年6月9日より正式に公開が始まりました。 2005年6月に当時の所有者、加賀田組が手放し、競売にかけられそうだという情報を得て、保存のための市民運動が起こりました。大倉が保存を求める会の副会長となり、さらに当会で事務局を引き受けて、保存の道を模索してきた経緯は、これまでも会報でお伝えしてきたとおりです。2009年に新潟市が買い取り、その後の調査、耐震補強工事を経て公開に至りました。 市が買って保存になったから良かった、というものでもありません。利用に市民が参加するべく、市民運動のメンバーが指定管理に加わっています。当会からも世話人の澤村が非常勤の副館長に就任しました。 オープンから2週間ほどは、平日は100人、休日は200〜300人の来訪者を迎えています。7月からは「水と土の芸術祭2012」の展示も行なわれるほか、さまざまに自主事業も開催しますので、ぜひお立ち寄りください。(澤村明) ※旧齋藤家別邸の公開の概要は以下のとおりです。
4月8日付けの朝日新聞の記事によれば、この2年間で31もの自治体が空き家対策条例を制定しているそうです。空き家の増加は建物の老朽化、犯罪の誘発、火災の発生、豪雪による倒壊等のおそれがあることから、緊急の課題として多くの自治体で取り組みが始まっています。 そもそも、建物が急速に郊外に建てられていく現状に対して、今ある建物をどうするかという問題が後回しにされてきた感は否めません。今回の空き家条例制定への全国的な動きは、この問題がいかに差し迫った状況にあるかということを示しているように感じます。 もちろん、古くなった建物が周囲に危険を及ぼすようなものであれば、撤去すべきという考えはごく自然なものです。しかし、新しいものに目移りしていくばかりで、これまで自分たちが住んでいた建物のことを顧みず、危険になったら一方的に切り捨てるという姿勢には違和感を感じます。 フロー型社会からストック型社会への転換が求められている中で、私たちの都市や建物とのつきあい方にも大きな転換が求められているのではないでしょうか?
新潟まち遺産の会事務局 〒951-8066 新潟市中央区東堀前通1-353(伊藤純一アトリエ内)
chanoma■machi-isan.sakura.ne.jp (■を@に変更して下さい・迷惑メール防止のため)