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新潟市 旧 會津八一記念館を考える


2014年11月29日
新潟日報
大倉 宏(美術評論家、新潟まち遺産の会代表)

 新潟市にある旧會津八一記念館の、建築の価値を訴えることを、この数カ月してきた。
 まず新潟市長に、次いで市議会に。関心を寄せる人たちと、価値を考えるセミナー、活用を考えるシンポジウムなどもした。書きたいのは、でもそういう「運動」的なことではない。
 旧記念館の建物は以前から「いい」と思っていたけれど、會津記念館移転後、あらためて内部をくまなく見る機会があり、さらに「いい」と思うようになった。
 39年前に建ったこの建築を設計したのは長谷川洋一。新潟生まれで、一時東京の大手建築事務所に、のち故郷で設計活動をした。それ以外はよく分からず、他の設計作品も不明だ。しかし完成後まもなく設計の苦心を書いた文が見つかった。そこには変形敷地の既存樹木を生かし、海岸林に接する場所の魅力を生かす工夫、努力をなしたこと、品格ある現代建築を構想し、文人會津八一にふさわしい日本らしさも意識したこと。厳しい気候風土も考慮したことなどが書かれていた。
 その言葉は、残された建物とよく照応している。大きな松の影が、シンプルな白い壁に映える正面。ぐっと低くなった裏庭の桜を望むテラス。一階の大きなガラス窓から見る海岸林の緑。こういう飾らない、シンプルな建築を「モダニズム建築」と通称するが、新潟の風土を取り込んだモダニズム建築だ、との建築家兼松紘一郎氏の評(本紙8月6日の記事)には意を得たり、と感じた。
 さりながら、そのよさを訴えてみて、感じたのは、この価値を伝えること、共用することの難しさだった。建築の、美術的価値と言えば大げさだが、それ自体を意識する習慣のなさが困難の背景にあると感じた。
 新潟市は9月議会に解体予算案を提出し、可決された。ただ市民団体の
陳情を受け、議会は価値の検証、住民への説明、利活用の検討を行い報告するよう注文をつけた。数日前、住民説明会を傍聴した。住民の参加者は数名。文化・スポーツ部部長という人が説明した。私や職員に建物の価値は分からない。専門家に意見を聞き、将来国の重要文化財になる建築なら解体は再検討する。
 暗く、深い海に沈んでいく心地になった。実績の知られぬ建築家の残した建築が、よいものであれ、国の重文に指定される可能性は限りなく遠い。少数の優等生だけを「文化財」に精選し、他の多くのよいものが価値なきものとされ、失われた。それがこの国の悲しい歴史だった。4選された現市長が当初よく口にした「あるもの探し」は、地域にあるものの価値を、地域の目で、見いだすということではなかったか。新潟に住む建築関係者が、美術評論家が「よい」と訴えた。セミナーにも、シンポジウムにも市の関係者の出席はなかった。「あるもの探し」の季節はいつか終わっていたらしい。
 新潟に生まれた建築家が知り尽くした風土に応えて生んだよい建物は、今、風前のともしびである。

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