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2007. 1. 10 vol. 7 

シンポジウム
町屋と民家に住み続ける知恵

 11 月23 日(木・祝)、「町屋と民家に住み続ける知恵」と題したシンポジウムを、新潟市歴史博物館で開催しました。
 今回で第4回目となるシンポジウムでは、当会が文化財登録制度の手続きを支援していることもあり、まずこの制度の利点などを知ってもらうため、それを活用されている方々のお話を伺い、さらに古建築の住環境を良質なものに転換させる技術なども紹介して、保全可能な文化財の価値を再考することが意図されました。
 第一部の基調講演には、古建築再生で著名な建築士である安井妙子さんをお招きし、古建築の住環境改善に有効な断熱気密技術の具体的な例について、いろいろお話を伺いました。
 また女史は、時間をかけて進化してきた古建築には、俄仕込みでは決して達しえない品格が備わっていることを強調し、そこには文化という形での伝統と、それを具象化させた文明という容での様式が共存しているため、これはぜひ次世代のために残す価値があるという持論も述べられました。
 つまり、そのままでは扱いにくい古建築が次世代に保全されて行くためには、それを住みやすく改善するのはもちろんですが、その品格を再認識するのも同様に重要であるということでしょうか。
 第二部の座談会には、自邸が有形文化財として国に登録されている方々(小林洋士さん、二宮葉子さん、諸橋彌須衛さん)をお招きし、物理的には使いにくくて寒くて厄介な古建築が、しかし精神的には豊かであって暖かくいとおしいものであるというお話を伺いました。
 諸氏の御自邸への共通の思いは、代々継承されてきた家族の歴史に裏付けられた懐旧の想いに強く影響されてきたようでした。しかし、それが社会の変化に対応した価値観の変化によって歴史と伝統の間で浮遊してしまった結果、現在ではその記録が蓄積された御自邸そのものが懐旧の想いの対象となっているという印象を受けました。
 つまり、歴史と伝統を時代(時間)に左右させずに継承させることの是非は、いかにしてその記録の対象を再認識するかにかかっているということでしょうか。
 今回の出席者は43 名を数え、アンケート集計結果からはその方々の年層が十代から七十代と幅広いことが分かりました。これは、今回の企画が各世代共通の関心事であったからだと理解しています。 
 このように、世代を越えた価値観の共有が見られた今回のシンポジウムは、とても有意義で興味深いものでした。(佐藤威)

上:第二部で語るパネラーの皆さん 下左:参加者の皆さん 下右:安井妙子さん

 新潟県聖籠町の二宮邸が9 月15日付で国の登録有形文化財に登録されました。聖籠町では初めての登録です。
 登録された14 棟の建築物と門塀は明治8 年から昭和10年にかけて建てられたもので、国土の歴史的景観に寄与しているもの、造形の規範となっているものとして評価されました。
 登録申請には当会の世話人が作業を行いました。小林邸につづき2 件目の登録です。文化庁によれば、登録に相応しいとされた特徴は以下のとおりです。
 二宮家は当地で名主を務めた家柄で、弁天潟に面して広大な屋敷地を占めています。敷地中央に大規模な主屋を構え、西側に6 棟の土蔵と新奥座敷(離れ)を配し、北側には味噌蔵及び飯米蔵と作業場が並んでいます。さらに道路を挟んだ北側にも2棟の米蔵があります。
 主屋は北面に大玄関、南面に上段の間、西南に奧の間、東南に茶室を配するほか、東側には渡廊下で連絡する客用風呂場を設けるなど豪壮な構えです。新奥座敷(離れ)は切妻造玄関付の木造2 階建で、弁天潟を望む東南面の開口を大きくとり、開放的です。
 西側の6 棟の蔵は、二号蔵から五号蔵は土蔵造2 階建、外腰壁は海鼠壁で規模もほぼ同様ですが、窓の配置や形式を変化させ、創意がみられます。2 棟の米蔵は大規模で、大門及び塀などとともに豪農の屋敷構えをよく伝えています。(澤村明)


 去る10月28日(土)、上越市雁木通りプラザにて「新潟県まちなみシンポジウムin 上越」が開催されました。
 これは、県内で歴史的まちなみや歴史的建造物に関わる人達が協力・連携し、県全体としての魅力創出を目指す「新潟県まちなみネットワーク」の設立に合わせて企画されたものです。ネットワークには、山北町から糸魚川市まで、市民・行政合わせて32 団体が参加を表明しています。
 当日は、シンポジウムに先立ち、設立総会が開催され、規約、役員選出、事業計画について承認されました。
 事務局は、事務連絡等に限るという条件で、当面、新潟商工会議所内の観光復興戦略会議事務局が引き受けてくださいました。
 役員としては、会長に新潟県観光カリスマ会議から吉川真嗣さん(村上市在住)、副会長に醸造の町摂田屋町おこしの会から中村隆さん(中越地区幹事兼務)、同じく副会長に専門家として新潟大学から岡崎が選出されました。ほかに、地区毎の幹事として、相川花の会から森恵子さん(佐渡地区)、当会から大倉宏代表(新潟地区)、城下町新発田まちづくり協議会から若林利次さん(下越地区)、上越市産業観光部観光局から村上雅巳さん(上越地区)も選ばれました。
 肝心の事業計画ですが、
 1)交流事業として次回まちなみシンポジウム開催の検討、
 2)普及・啓発事業として見学会や共同宣伝手法の検討、
 3)広報事業としてホームページや県内まちなみ紹介パンフレットの検討、
 4)支援事業として各地の団体等の支援、
などとなっています。いずれも「検討」となっているのは、資金等の問題で実行できる保証がないからです。少なくとも来年のシンポジウムは実現させなくてはならないと思いますが、候補として長岡が上がっています。
 シンポジウムでは、25 団体による事例発表に続き、「新潟県のまちなみを活かしたまちづくり〜これまでの成果とネットワークへの期待」と題し、各地区幹事を中心にパネルディスカッションが行われました。他地区を参考にしながらも、独自の工夫を凝らしてまちづくりに取り組んでいる様子が伺えたように思います。
 また、最後にコメンテーターである県観光企画監の小島隆さんから、「今後は会費制を導入し、資金確保の上、本格的な活動展開を」との激励を受けました。会費制には会計を管理できる事務局が必要ですが、これは当初から懸念していた問題です。
 当会としてはネットワークの発展に、できる限り貢献したいと考えております。会員の皆様におかれましても、是非、ご協力をお願い申し上げます。(岡崎篤行)

 今回のネットワーク設立には、2つの源流があります。
 1つは、2000年に県内6地区が参加して開催された「新潟県町並みシンポジウム/村上」です。吉川さん達を中心に企画され、大倉代表もパネラーでした。
 2002年には、新潟下町の歴史的景観を愛する会主催、新潟の町屋を生かす会(当会の前身)協力による「新潟県町並みシンポジウム第2回 新潟の町屋を見直そう」が、新潟市で開催されています。村上に灯った火を消すまいと、吉川さんのほか、上越の関由有子さんをお呼びし、なんとか県内シンポジウムの体裁を整えたのでした。この時から「第3回は是非、上越市で」と働きかけていました。
 もう1つは、2004年に国の観光カリスマ百選に選ばれた吉川さんや県の小島さんなどが中心となった動きで、組織の立ち上げを意図していました。となると、事務局をどこが担うかが問題です。当会内では「時期尚早では」との懸念もありましたが、小島さん達の熱意に押され、協力することになりました。
 そして、今年3月に新潟県観光復興戦略会議の一環として村上で開催された「第3回新潟県観光カリスマ会議」の場で、「新潟県まちなみネットワーク」の発会が宣言されました。その後、打ち合わせを重ね、上越市担当者の皆さんのご尽力もあって、今回の正式な設立に至ったのです。



 2001 年に解体をした東厩島町の町屋の部材は当会発足の原点でもあります。この部材を用いての町屋再生を、何とか新潟下町に実現したいとの思いから、「再生町屋による下町情報センター」の提案とアピールを、一般市民と行政に対して行ってきました。
 昨年は聖籠町の二宮家の米蔵の裏に、ブルーシートをかけた屋外保管の形で冬を越しましたが、冬の強風でシートには穴があき、雨水が中に入り込んでしまうという憂慮すべき状況になってしまいました。
 アピール実現までには、少なくとももう一冬は越さなければならない見込みとなったことから、二宮家に米蔵の一つに部材を1 年間保管させていただくことをお願いし、了承をいただくことができました。
 9 月2 日(土)と10 月9 日(日)の二日を使い、会員とボランティアの参加を得て、部材を米蔵内に移す作業を行いました。2 日とも朝9 時半から一本一本の部材の寸法と状態をチェックし、番付を確認しながらの作業。いずれも夕暮れまでの仕事となりました。
 幸い両日とも天気に恵まれ、久しぶりに日の光を浴びた部材も喜んでいるようでした。傷んだ部材もありましたが、全体を目視した限りでは、思いのほかいい状態であることも確認できました。汚れを落としてあげると、部材も喜んでいるようでした。
 10 メートル以上ある長尺部材だけは、蔵にいれることができず、引き続き屋外にシートをかけて保管することになりました。参加して下さった皆さん、お疲れ様でした。
 蔵という理想の保管スペースをご提供くださった二宮さんには感謝の言葉もありません。
 解体状態も6 年目に入ります。来年はこの課題の正念場になるという思いで、働きかけを継続していきたいと思います。(大倉宏)


 9月23日(土・祝)、「まち遺産マップ 異人池・ドッペリ坂界隈」の発行を契機に、洋館やお屋敷といったハイカラで閑静な坂の街大畑界隈のまち歩きを開催しました。
 参加総数は25名。大倉と伊藤がガイドになり2組に分かれ、午後1時30分スタートで、「東回り お屋敷・町屋めぐりコース」「西回り 学び舎・公舎めぐりコース」を、マップ片手に順番にめぐりました。
 約2時間半のまち歩きでしたが、お天気もよく気持ちのよいまち歩きになりました。日頃通り過ぎているところに初めて気付いた魅力的な物があったり、通ったことのない通りを教えてもらい歩いて新しい発見があった、といった感想が寄せられ、マップ制作の意義が感じられた企画でした。定期的にこのような企画を開催できればと考えております。(伊藤純一)


 11月11日に旧副知事公舎を利用したレストラン「海の洋館 ネルソンの庭」が開店しました。
 道路に面したブロック塀が取り壊されたので、洋館部分の全貌がよくみえるようになりました(写真参照)。門の周辺と玄関(写真では洋館の裏側に当たる)も外形が残されています。内部は付け書院のある12畳の和室が保存されていま
 どっぺり坂に近くに建つ旧副知事公舎の売却の可能性が伝えられたのが2004年9月、当会ではただちに保存に向けて活動を始めました。以来2年以上を経てようやく、保存活用の一つの事例が始まったといえます。(千早和子)

付け書院 床の間の横に、縁側に張り出して設けた出窓のような部分。


養成講座のお知らせ
 新潟市で観光ボランティアガイドの養成講座が開催されます。講座は1 月27 日から3 月にかけての5 回で、現在受講者を募集中です。1 月8 日の市報に募集記事が掲載される予定です。
 くわしくは、以下のホームページの「お知らせ」のところをご覧ください。申込みと問い合わせはお電話で受け付けています。
https://www.city.niigata.niigata.jp/info/kanbutu/guide/index.html
観光物産課 TEL 025-226-2512(直通)


 

 10月8日(日)、下本町商店街が主催する第12回にいがた下町ウォークに、ガイドとして、堀割の会や下町のまちづくりの会のメンバーなどと共同し、当会から2 名参加しました。
 荒天のせいもあってか、例年より参加者は少なかったのですが、説明が行き届き充実したものになりました。小澤邸の庭園、通り土間の公開に加え、今回、初めて「片桐邸の庭園」が公開されました。
 庭石や燈籠の配置、素材の良さに、訪れた人は往時の隆盛に想いを馳せるとともに、しばし世俗を忘れたかのようにくつろいでおられました。
 また、昨年から、早川堀通りの裏手に位置する町屋2 軒が公開に協力してくださっています。いずれも築後50 年を経過しており、通り土間がある、明りとりの高窓を有するなどの、新潟町屋の特徴が備わった歴史的なものですが、伺えば「次世代の方はこの建物を継ぐ意志がない」と寂しそうにお話されていました。
 例えば、早川堀が再現され、これらの町屋が生かされるならば、下町は「湊町新潟の魅力」が出せる町になるのではないでしょうか。(高橋照子)


 

 子どものころ、兵庫県西宮市の、阪神電車沿線の住宅地に住んでいました。小学校半ばで引っ越して、25年ほど経ってかつて住んでいたところを訪ねて驚きました。
 近所の家はすべて建て替えられ、区画も変化して、記憶にある建物はひとつもありません。家の前に広がっていた空き地には、10軒以上の家がみっしりと建ち並んでいました。うちが面していた小道は数メートル先で鍵の手に折れ曲がっていたのが、まっすぐな道になり、道幅もひろがっていました。
 住んでいたうちを探すにも、番地表示が変わっていて昔の住所は手がかりにならないし、どちらにしろ建物自体がもうなかったのです。わたしが住んでいた町は何かに「乗っ取られた」のでした。
 町がまるごと相貌を変えるのに、25 年という年月は短かすぎるように思います。自分の親兄弟が10年ごとに若返り手術を受けて、いつまで経っても30歳の容貌を保っているような違和感を、もっといえば不自然さを感じます。
 新しい家と古い家がほどよく混じり合い、街並みから町の記憶がうっすらと嗅ぎとれる。それがなじみやすく住みよい町だと思いますが、現実の町はそううまい具合に変化していってはくれません。残念です。(千早和子)


 新潟市湊町通り1の町。2階の看板は「野本表具店」です。ここの商店街は雁木が長く残っていましたが、改築とともに姿を消しました。下の写真は2000年4月に撮影されたもので、手前の建物は西セレモニーホールです。


 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。会報の製作が年内に間に合わず、新年早々にお送りすることになりました。申し上げるまでもないことながら、記事の日付はすべて去年、2006年のものです。
 町屋の部材の整理に参加してくださった人たちのなかから、新たに二人の方が世話人になってくださいました。会報でもおいおい紹介していくつもりです。(千早)


 
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