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2010. 4. 24 vol. 13 

《特別寄稿》古町花街を歩く――妻入りの町並みと、でこぼこの魅力
 昨年は花街プロジェクトに始まり終わったような一年でした。8 月21 日には、町屋研究の第一人者である京都府立大学の大場修先生をお招きして、プロジェクトへの助言をいただきました。小雨がぱらつくなか花街を歩き、いくつかの建物の内部を見学した印象をまとめていただきました。

 今回、茶屋美や古、料亭有明、さらに市山流家元市山邸の内部を駆け足で拝見する機会を得ました。いずれの建築も内外観に特徴的な構成を備え、しかも料亭有明と市山邸は少なくとも明治後期から大正初期に遡る新潟古町の花街でも最古級の建物であろうと拝察しました。
 新潟古町の茶屋や料亭建築は、通路(廊下)を縦に取り、それに沿って部屋を並べる構成でみな共通しているようですが、驚かされたのは廊下の長さです。茶屋美や古にせよ料亭有明にせよ廊下が何処までも長く奥に続いています。実際は、裏への増築であったり、裏手の建物を買い取って接続されたものであったりと、現在の状況に至る過程は様々なようです。
 しかし注目したいのは、部屋の単位を廊下に沿って串刺しのように縦にどんどん連結していくという空間構成のシステムがそこにはあることです。間口が狭く細長い建物の中に背骨のように延びる廊下があり、それぞれの部屋がそれに沿って縦に並ぶ様を、仮に茶屋や料亭の屋根を取り払って空から眺めれば、大変整然とした部屋の配列が見て取れることでしょう。
 しかも、建物と建物の間には細い露地が延びています。外の露地と建物の中の露地(廊下)が交互に整然と並んでいる訳で、それにより人の動きも建物の中と外の両方で縦にせわしなく動いている様を想像すると大変におもしろい。
建物と建物のあいだを通る露地。
建物の中は、露地と平行に廊下が延びている。  関西の方で、花街と言えば京都の祇園や金沢の茶屋町を連想する方が多いと思います。平入の建物が整然と建ち並び統一感のある家並を構成しているこれらの町並みと比較すると、新潟古町の花街の景色は全く違ったもののように感じられます。
 古町の花街では、茶屋にせよ料亭にせよ建物は妻入が基本です。妻入の家並みであることが、古町の景観を京都や金沢の町並みと大きく異なるものにしている最大の理由です。しかし、妻入という家屋形式は、単に景観を特徴付ける以上の意味を持っているというように、私には思われました。
 妻入家屋の場合、構造的に裏手に延ばすことが容易です。部屋への採光を気にしなければどこまでも長くすることができます。実際、拝見したお茶屋や料亭の建物でも、窓をとり中庭を設けることにあまり拘らずに部屋が接続されているような印象を持ちました。平入では、裏手に延ばそうと思えば屋根がどんどん高くなり簡単には行きません。棟と棟の間に中庭を適度に挟みつつ棟を縦に繋げることになるので、平入の家屋では庭と部屋は不可分の関係にあります。
 新潟古町の標準的な茶屋や料亭の平面構成には、妻入建築であるということの特徴が最大限発揮されているのではないでしょうか。
 さらには、建物の間を長く縫うように延びるたくさんの露地の存在も、妻入ベースの町であることに起因しているように思います。妻入家屋の場合、隣棟間には両方から庇が下がり雨落ちの溝が不可欠なので、どうしても隙間が出来ます。露地はこの隙間から発生したものと考えられます。露地は妻入の町並みに必然的に形成された街路なのです。しかも、露地両側の建物の側面から張り出す壁面の様々な突起は、この花街の景観の大きな特徴ですが、壁面のおもしろい構成も妻入の町であることに由来する、と私はみています。
 新潟古町の花街、ここには妻入の町家と町並みの論理が徹底されている。そんな印象を私は強く感じました。
                           (大場修・京都府立大学教授)

花街プロジェクトは次の展開へ
シンポジウム「再発見 湊町新潟 花街の建築とまちなみ」
柳都新潟
古町花街 たてものマップ
柳都新潟
古町花街 たてものマップ

 北前船の寄港地である湊町新潟には、かつては京都祇園、東京新橋にもならぶといわれるほどの一大花街が築かれました。現在も古町には花街の伝統文化や歴史的な町並みが残っています。
 2009 年度、当会では、この古町花街に歴史的な建物や町並みに着目して、その価値を広く市民の方々に知っていただくための活動を行ないました。

花街建築の実測調査
 花街建築は内部も特徴的な建物が多いため、実測調査を行ないました。調査したのは、市山流の家元である「市山邸」、かつて待合として営業していた「美や古」の2件です。

シンポジウム「再発見 湊町新潟 花街の建築とまちなみ」の開催
 京都から町屋研究の大場修先生、花街研究の井上えり子先生、東京から神楽坂で活動するNPO 法人「粋なまちづくり倶楽部」の寺田弘さんをお招きして、今後の古町花街のあり方が議論されました。また、当日はまちあるきも開催しました。


花街マップの発行
 花街の歴史的な建物や、町割りや街路空間などのまちのつくり、歴史などの情報を盛り込んだ「柳都新潟古町花街たてものマップ」を発行しました。
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 花街は近代に全国に増加したと言われていますが、戦後に減少し、現在では京都や東京といった大都市でみられるのみとなっています。
 その中で、地方都市にあり、さらに、現役である芸妓さんや芸妓を養成・派遣する組織、といったソフトだけでなく、歴史的な建物や趣のある路地のようなハードが残っている古町の花街は希少だといえるでしょう。
 また、近年、古町では大和の撤退や、老舗書店の北光社の閉店など地盤沈下が続き、中心市街地の活性化が課題となっていますが、そういった面でも花街は今後、古町再生の手だての一つになる可能性を秘めています。
 一方で、花街の歴史的な町並みには解決すべき問題も残されています。歴史的な建物は景観上の問題だけでなく、住環境や防災面での問題を抱えています。また、今は残されている新道や路地も、現在の制度のもとではいつなくなってもおかしくない状況にあります。
 今後は、今回行なってきた価値の普及に加えて、古町花街をどのように整備していき、どのように守っていくかを検討する、次のステップに移っていく必要があるでしょう。
 これらの課題を解決するためにも、当会では今後も古町花街で活動を行なっていきたいと考えております。是非とも皆様の活動への参加をお待ちしております。
                    (新潟大学 都市計画研究室 佐藤正宗)


ふるまち新潟をどり

花街を花街たらしめるメインイベントは、年に一度の「をどり」です。
京都祇園甲部の「都をどり」は有名ですが、地元、新潟古町でも「第22 回 ふるまち新潟をどり」が、りゅーとぴあで開催されます。新潟が誇る伝統文化を、一度はご覧になってはいかがでしょうか。
詳細は、りゅーとぴあチケット専用ダイヤル(025-224-5521)にお問い合わせください。
     ■日時 6 月20 日( 日)  12:00、15:30 開演(2 回公演)
     ■料金 S 席 4,000 円  A 席 2,500 円
     ■チケット取り扱い    新潟伊勢丹 CoCoLo 万代 りゅーとぴあ


世話人会へのお誘い

毎月第2火曜日6時半から、新潟市民活動支援センター(西堀)で、会の運営について話し合っています。お気軽にお立ち寄りください。日時は変更することがありますので、念のため事務局にご確認ください。


インターネットでみる新潟の建物とまちなみ

当会ホームページに「新潟市に残る歴史的建造物 新潟島編」という頁を新設しました。新潟島に残る古い建物を一堂に集め、紹介しています。350 年前の新潟町の移転時以来続く町並み、その後拡がった下町の一帯、明治以後に開発された西大畑界隈、それぞれのなりたちや雰囲気が建物からみえてきます。「新潟まち遺産の会」で検索し、「新潟市に残る歴史的建造物」のところをクリック! 新潟市に残る歴史的建造物 新潟島編

西大畑で写真撮影会を開催

 10月12日(月・祝日)、写真家の相田諒二さんを講師にお迎えして、西大畑で撮影会を行ないました。参加者は12 名でした。撮影後の講評会では、参加者自ら作品を数枚選び、それに相田さんがていねいな寸評と技術的なアドバイスをされて、皆さん納得顔で聞いておられました。
 ここに掲載したのはごく一部です。どれも色鮮やかな作品で、カラーでご紹介できないのが残念です。


旧齋藤家別邸の特別公開のお知らせ

 旧齋藤家別邸では、今後の活用に向けて調査と検討の一環として、今年度に活用方法などを試行・検証するための公開を何回か行ないます。
 今回は、新潟市美術館や會津八一記念館の企画展にあわせた特別公開です。古町芸妓や市内の観光スポットを紹介する写真の展示、オルガン演奏、花街茶屋、呈茶サービスなど多彩な催しを用意しています。
 ■日 時:4月24日(土)〜6月13日(日)
     午前10 時?午後5 時(5 月21〜24 日は午後6 時まで)
 ■休館日:4月30日(金)、5月1日(土)・10日(月)・17日(月)・20日(月)、
      6月2日(水)
 入場料金 300 円(運営協力金として) 催し物によっては別途料金がかかります。
*駐車場はありませんのでご注意ください。
お問い合わせは、旧齋藤家別邸社会実験協議会事務局(新潟市文化観光・スポーツ部歴史文化課内)まで。


渡辺写真館その9
野口旅館

上は、今の中央区医学町通1番町にあった、木造3階建ての野口旅館。下は2000 年撮影で、駐車場になっています。上写真で奥に少し見えている屋根が、下写真の「菊水」の看板のある松本酒店。


赤塚の大地主の屋敷を公開
 4月11日(日)、赤塚の旧家のお屋敷の特別公開を見てきました。新潟市内から佐潟を過ぎたところで旧北国街道に入り、「屁っぷり坂」といわれる坂を登っていくと、右側に立派な石垣が現れます。これは江戸時代の大庄屋だった石黒家の屋敷跡。その先にある巨樹に囲まれた冠木門が中原邸の門です。
 母家は天保年間の築といい、太い柱や土間の小屋裏のどっしりとした構えが目を引きました。庭に面して、明治11 年の天皇北陸巡行の折に増改築され行在所となった続き間がそのまま残されています。
 中原邸は今もお住まいの家です。屋内は非公開で、中原邸保存会の方々のガイドで庭や土間から座敷などをみせていただきました。
 また、旧北国街道の、おそらく切り下げたらしい坂道の両側には懐かしい佇まいの家が並び、また歩いてみたい道でした。(千早和子)

赤塚の大地主の屋敷
左は門を入った前庭。奥の建物が母家、左の塀の向こうが庭。    右は釘隠し。

世話人リレーエッセイ「未来は明るい!かも?」宇佐美 保
 「古い良いものを守る」「古い悪いものを直す」「新しい悪いものを防ぐ」「新しい良いものを創る」これは当会岡崎副代表が景観形成のために何をすべきかを住民にわかりやすく説明する際に使うフレーズです。「古い」と「新しい」、「良い」と「悪い」を組み合わせたものですが、頭にも心にも残る非常に良いフレーズです。
 当会は、この4つの中で主に町屋の保存や移築、洋館の再生活用、店舗の移築活用などにより「古い良いものを守っている」訳ですが、あとの3つは誰がどうすれば実現されるのでしょうか? 「どうする」ということでは、いろいろなアイデアを出せる人たちがいます。
 「誰が」となると問題で、真っ先に頑張りが足りないと言われるのは行政ではないでしょうか。市民活動には限界があり、提案はできてもそれを実現するためには市民だけでは越えられないハードルがいくつもあります。それを越えられるのが行政だと思います。
 私は行政側の人間ですが、近年、私のように行政職員の中にもまちづくりに参加する人が増えてきています。小須戸や長岡などでは中心人物として活躍している方もいます。
 行政が、これまで以上に当会の考えや活動を理解し、あらゆる角度から下支えできる組織に生まれ変わる日もそう遠くないと感じています。

 
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